睡眠を“設計”して仕事と髪を立て直す|40代・管理職Sさんの実践録

これは40代前半・男性・Sさんの話。

中堅の管理職に昇進してから、Sさんの生活は一変した。メンバーの評価、月次レポート、取引先対応――日々の判断は増える一方で、帰宅は深夜、ベッドに入っても頭のスイッチが切れない。眠りは浅く、朝は重たい。そんな日々が続くうちに、こめかみの辺りの地肌が光を拾うようになった。ドライヤーを当てると前より髪がまとまらない。抜け毛も増えた気がする。「年齢だから仕方ない」と自分に言い聞かせる一方で、鏡を見るたびに小さなため息が出た。

決定的だったのは、ある朝の会議だ。資料の読み込みが甘く、取引先の質問に答えが詰まった。睡眠不足で“認知のピント”が合っていない感覚。会議後にふと鏡を覗くと、分け目のラインが前より広い。Sさんはそこでようやく、「このままではまずい」と本気で生活を変える決心をした。

最初に手を付けたのは、就寝と起床の固定だ。平日も休日も、23時に寝て6時半に起きる。会食があっても、どこかで帳尻を合わせるのではなく、翌朝は必ず同じ時間に起きる。眠れない夜は、スマホを見ずに紙の本を10分だけ読み、あとは軽い呼吸法で腹式呼吸に集中する。布団の上で「眠らなきゃ」と焦らないこと、それが初めのハードルだった。

次に、朝の太陽光だ。ベランダに出てコーヒーを片手に5分間、目を閉じて陽を浴びる。天気が悪い日は室内の照明を明るくして代替する。これで体内時計のズレが少しずつ整い、昼間の眠気が引いていった。午後のカフェインは13時まで。夕方は白湯に切り替える。夜のアルコールは週2回までに制限し、量もハイボール1杯に抑えた。

寝具も見直した。沈み込みすぎない中反発マットレスに替え、枕の高さは肩幅に合わせてミリ単位で調整。寝室は遮光カーテン+足元だけ微光が漏れる常夜灯の組み合わせにし、室温は26℃前後、湿度は50〜60%にキープ。就寝1時間前はシャワーではなく38〜39℃の湯船に10分浸かり、入浴後は扇風機の弱風で汗を引かせた。

頭皮ケアは“足し算”をやめた。強い刺激のスカルプ系をいったん休み、洗浄力が穏やかなシャンプーで指の腹だけを使って1分弱の短時間洗い。タオルドライは摩擦を減らし、ドライヤーは15cm以上離して温風→冷風で仕上げる。ヘアワックスは帰宅後すぐに落とす。つまり「守るケア」を徹底した。

食事は「高タンパク+地中海食」に寄せた。朝はギリシャヨーグルトに蜂蜜とクルミ、昼はサラダチキンと雑穀米、夜は魚とオリーブオイル、野菜は色の濃いものを2品。間食はプロテインと素焼きナッツ。外食が続く日は亜鉛・鉄・ビタミンDをサプリで補うが、基本は食事で満たす方針だ。

2週間が過ぎるころ、夜中に目覚める回数が減った。1か月後には、朝の“頭の霞”が晴れ、午前の会議でも言葉が自然に出てくる。家族からは「最近、機嫌がいいね」と言われた。Sさん自身は、排水口に溜まる髪の量が目に見えて減ったことに驚いた。手ぐしの引っかかりが少なく、ボリュームの“根元の押し返し”が少し戻ってきたような感覚がある。

3か月目、写真で見比べると生え際の薄い影が和らぎ、分け目の地肌の見え方がマイルドになっている。美容室でも「髪、コシが出ましたね」と言われた。Sさんはその場で、これまでの取り組みを淡々と話しただけだが、担当のスタイリストは「睡眠を整えたのが大きいと思います」と頷いた。

仕事のパフォーマンスも安定した。寝不足のときに起こりがちだった短気な反応が減り、部下の話を最後まで聞ける余裕が生まれた。意思決定のスピードは落とさずに、迷いの“ノイズ”が減る。日中の集中の質が上がると、残業も自然と減った。夜は家族と夕食を囲む時間ができ、ベッドに入るころには心身が素直に休息モードへ移行する。

もちろん、完璧な日ばかりではない。会食で夜更かしした翌朝は眠気が残ることもある。それでも、決めた起床時刻に起き、昼に15分のパワーナップで整える。ルールはシンプルで、破綻しにくい。Sさんにとって大切なのは、“続けられる仕組み”を生活の骨組みにしておくことだった。

半年が過ぎた今、Sさんは「髪のことを考える時間が減った」と笑う。気にならなくなったのではない。ケアの“地合い”が決まり、不安に引き戻される回数が減ったのだ。睡眠を核に据えた暮らしは、髪だけでなく、心の浮き沈みや家族との関係、仕事の質にも静かに波及していった。

Sさんは言う。「劇的な一発逆転じゃない。小さな選択の積み重ねが、気づけば大きな差になる。僕にとっては、それが睡眠だった」。


チェックポイント!
  • 就寝・起床時刻を毎日固定 — 平日も休日も同じリズムで体内時計を整える。
  • 朝の太陽光を5分浴びる — 目を閉じてもOK。曇天や室内は明るい照明で代替。
  • 午後のカフェインは13時まで — 夕方以降は白湯・ハーブティーに切り替え。
  • 就寝1時間前に38〜39℃で入浴 — ぬるめの湯で深部体温の自然下降を促す。
  • 寝具のフィッティング — 中反発マットレス+肩幅に合う枕高、寝室は26℃・湿度50〜60%目安。
  • 頭皮は“守るケア”中心 — やさしい洗浄、摩擦オフ、温風→冷風でドライ。
  • 高タンパク×地中海食に寄せる — 魚・オリーブオイル・色の濃い野菜、必要時のみサプリ。
  • 酒は週2・少量に — 量より頻度管理。翌朝は固定起床+15分昼寝でリカバリー。

※個人の特定を防ぐため、一部脚色しておりますこと、ご了承ください。

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